ローカルインタビュー

「起業家精神を身につけ、主体的に行動できる高校生を育てたい」

『NPO法人SoELa』 岡部佳文さん

2021年7月にオープンした「SPRAS AOBADAI」。10月にNPO法人SoELa(ソエラ)による「アントレ塾」が開講予定です。「アントレ塾」は高校生がアントレプレナーシップ(起業家精神)を学ぶことができる場。なぜ、地域の高校生を対象にこのような場を開講するに至ったのでしょうか。

今回は同法人代表理事の岡部佳文さんと、岡部さんの教え子でボランティアグループMore代表を務める鈴木さんにお話をうかがいました。

「主体的に行動できる高校生を育てたい」民間人校長として赴任した高校で始めたアントレプレナーシップの授業

岡部さんが代表理事を務めるNPO法人SoELaを設立したのは2016年1月のことです。

「それまで大日本印刷に勤めていて、子ども向けの環境教育ツールの地球カードゲーム『My Earth』を慶應義塾大学の学生と一緒に作り、企業内起業して事業化したんです。私が会社を辞めたあとも事業は続いていたのですが、2016年に事業をやめることになり、私がその事業を引き継ぐためにNPO法人を作りました」

当時、岡部さんは神奈川県の公立高校で民間人校長として勤務していました。

「10年ほどずっとPTA会長を務めていたんですが、PTA会長としての活動の中で学校というシステムが内を向いていて外との関係性が薄いことが気になったんです。学校教育と社会の溝を感じたので、そこをシームレス化したいという思いをもともと持っていました。それで民間人校長に応募したのです」

民間人校長として高校生に触れ合う機会が増え、岡部さんはあることを思うようになります。

「特に私が勤務していた中堅高校と言われる学校に通う生徒たちは、“主体性がない”子どもたちが多かったのです。自分はいつかできる、と言いながら最後までは何もしないという子どもたちが多い印象を受けました」

主体性を持って、自分でやりたいことを選び取ってほしい。そのためにはアンレプレナーシップ(起業家精神)を身につけることが必要だと考え、授業にアントレプレナーシップを取り入れることを決めます。

「2045年は、シンギュラリティと言ってAIが人間の能力を超える年と言われています。そんな時代が訪れても自分の力で生きていくためには『自立・協働・創発』という力を身につけるべきだと考えました。そしてこの力こそ、アントレプレナーシップによってもたらされる力だと思ったのです。

当時はキャリア教育という言葉が使われ始めた頃でした。今まではキャリアっていうと、高校の場合は進路指導を指していました。しかし、大学進学だけでなく、その先の自分の人生をどう選択していくかの方が重要。そのためにもアントレプレナーシップの考え方が高校生にも必要だと考えました」

勤務していた元石川高校で始めたアントレプレナーシップの授業では、問題発見解決能力やリーダーシップ、創造性を身につける講義やワークショップだけでなく、実際に企業が抱えている課題が題材にし、グループでその課題を解決する方法を直接企業に提案します。テーマを提供した企業側も、高校生に対して本気で課題解決に向き合うため、プレゼンに対して厳しく指摘することも。こうした実践を重ねるなかで、生徒たちは自然とアントレプレナーシップを身につけるのだそうです。

アントレプレナーシップの授業を受けるために元石川高校に進学したという鈴木さん。授業を通じて「さまざまな力が身についたことを実感した」と言います。

「アントレプレナーシップの授業のおかげで、間違いなくプレゼン力は身につきましたね。リアルな企業のテーマについてグループで議論してプレゼンをおこなうのですが、自分たちのアイデアをどれだけ印象に残るものにするかを試行錯誤したのが楽しかったです。他のグループのプレゼンを観て、さまざまな考え方に触れる機会も得られました。

アントレプレナーシップの授業などを通じて、夢=職業ではないというのに気がついたのも大きかったですね。職業も大学進学も、あくまでも夢に向かうための手段。自分の夢や目的に向かって、いま何をすべきかを考えて行動できるようになりました」

アントレプレナーシップを学ぶだけでなく、地域の大学生や社会人とも交流できる場にしたい

そして、2021年10月、これまで高校などで実施していたアントレプレナーシップの授業を「アントレ塾」として「SPRAS AOBADAI」で開講します。

「以前、アントレプレナーシップの授業をたまプラーザで次世代郊外まちづくりの人たちと一緒にやっていたんです。その延長で、東急さんにお声かけいただきました。

もともと、スプラス青葉台でビジネスコンテストをやりたいというお話だったのですが、それだと単発で終わってしまう。もう少し長い目で高校生を育てたいと考え、アントレ塾を開講することになりました」

そういった縁もあり、今回は東急さんから課題となるテーマを用意いただくそう。計10回で実施するアントレ塾は、1回2時間の講座で、問題解決に必要な、コミュニケーション、

発想法、プレゼンテーションの講座を専任講師、元宝塚ジェンヌなど多彩な講師が実施し、5、6人のグループで解決策を導き出すためにディスカッションを重ねます。

ディスカッションではファシリテーターとして、大学生や若手社会人のリードのもとで行い、最終プレゼンテーションはテーマを提供していただいた企業の方に実施していきます。

また、別途、受験において今後重視される総合型選抜に向けた指導も、1年生から参加できる形で行う予定とのことです。

「グループ活動となると誰か1人がリーダーになって、引っ張っていきがちです。もちろん、アントレプレナーシップにはリーダーシップも欠かせない要素のひとつ。しかし、誰か1人が引っ張っていくのではなく、グループ全員が常に自分で考え、一人ひとりが主体的に行動できる権限なきリーダーシップを身につけてほしいと考えています」

またアントレ塾とともに「Fday」という大学生との交流スペースが隔週で行われる予定です。そのリーダーを鈴木さんが務めます。

「Fdayで目指しているのは、家でも学校でもない第3の場所作りです。1回2時間で、そのうち1時間は大学生のファシリテーターが中心となった企画を考えています。メールの書き方講座をやったり、学校の校則の疑問について考えたりFdayの校則を作ってもらおうかな、と考えています。NPOや地域の方を外部講師に招いて、ワークショップを行うスペシャルFdayも不定期で開催する予定です。気軽に高校生が夢を語れる環境にしたいと思っています」と鈴木さん。

高校生にとって、なかなか大学生や社会人と話す機会という貴重なもの。Fdayはそういったコミュニケーションの場を地域にもたらすという、重要な役割を果たしてくれるに違いありません。

最後に、どんな高校生にアントレ塾に来てもらいたいか、岡部さんにうかがいました。

「自分で何も決められなくて、でもこんな自分を何とかしたいと思っている高校生に来てほしいですね。主体性を身につけたい、リーダーシップを知りたいとか、コミュニケーションってなんだろうとか、何かひとつでもやりたいことがある高校生にぜひ参加してほしいです」

第1期生は30名募集。1グループ5人で計6グループ作る予定だそうですが、大人だけのチームも1グループ作るそうです。

「高校生たちに大人ってこんなこと考えるんだな、大人も高校生ってこういうことを考えるんだな、ってお互いに知ってもらうのもいいかなと思うんです」

「アントレ塾」は、高校生たちがアントレプレナーシップを学び、成長する場にとどまらず、多世代の人たちとコミュニケーションを取る場、大人と高校生が互いを知る場でもあります。一人でも多くの地域の高校生たちがアントレプレナーシップを学び、自分の夢や目的に向かって主体的に将来を選択する力を身につけてほしいですね。