<< /p>

ローカルインタビュー

“旅する八百屋”青果ミコト屋が地元青葉区に拠点『Micotoya House』を作った理由 

『青果ミコト屋』 鈴木鉄平さん

『旅する八百屋』というタイトルで本を出版したこともある青果ミコト屋。2011年から店舗を持たない青果店として活動してきましたが、2021年2月、地元の青葉区に実店舗「Micotoya House」をオープンしました。青葉台でミコト屋がどんな店を目指しているのか、オーナーの鈴木鉄平さんにお話をうかがいました。

同級生のお母さんたちが青果ミコト屋にとって最初のお客さん

青果ミコト屋は、高校の同級生だった鈴木鉄平さんと山代徹さんが2011年に始めた青果店です。2人は青葉区育ち。『旅する八百屋』という本のタイトル通り、キャンピングカーで全国各地を巡ることを続けています。

旅先では、自然栽培や在来種の栽培など個性ある農家を訪ねて信頼関係を構築。一般の店にはあまり並ばないけれど、作り手の思いのこもった野菜を販売してきました。現在も全国から約150の契約農家から厳選した野菜を仕入れています。

八百屋としての事業をスタートしたのは、荏田北にある鈴木さんの自宅のひと間。スタートから5年ほどは自宅に間借りしていました。

現在も続く宅配は、Micotoya Houseのバックヤードから出荷。

実店舗を持っていなかったミコト屋の販売方法は、配達や宅配、イベントへの出店でした。特に青果店を始めて間もない頃のお客さんは、高校や中学の同級生のお母さんたち。鈴木さんいわく「こういう野菜を売るので買ってくれないかと頼み込んで買ってもらっていた」のだとか。「お客さんは30軒ぐらいでした。1軒の配達先に山代と僕と2人で届けに行くぐらい暇だったんですよね」と当時の様子を鈴木さんは振り返ります。

ほどなくして、青葉区内の地域メディア『森ノオト』で取り上げられたほか、青葉区内や近隣のイベントやマーケット、企業の軒先などで野菜を販売するなど、ミコト屋は徐々に活動を拡大。

「ところがイベントに出ても、全然野菜が売れないときもあったんです。『イベントで野菜が残ってしまった』とSOSを出すと買ってくれたのは、青葉区内でカフェを営業していた方。僕らにとっては『神様』でした。あの頃は子育て真っ最中やひと段落したお母さんたちも含めて、地元の皆さんに買い支えてもらいました」

自分たちの町で若者が少し変わった八百屋をやっている。そのことを応援してくれる地元の人たちは徐々に増えました。もちろん、ミコト屋への共感はもっと広い地域にも波及。口コミが広がって宅配の注文が増え、東京都内や近郊で開かれるマルシェへの出店の誘いも次々と舞い込みました。メディアでもたびたび取り上げられ、新しいスタイルの八百屋、ミコト屋は青葉区よりも広い場所を舞台に活躍していきます。

「都内のイベントに出店してみると、お客さんが多くて野菜もたくさん売れます。それで青葉区内のイベントへの出店が減っていきました。冗談まじりに『ミコト屋は青葉区を捨てた』と言われてしまうこともありました」

 

地元青葉区で失われつつあったコミュニケーションを作る「Micotoya House」

当初は店を持つつもりはなかったものの、いつしか「いずれは実店舗を構えたい」と考えるようになった2人。活動の幅は広がっていましたが、青葉区内での配達は続けていたこともあり、店を持つなら青葉区内でと思うように。一方で地方の農家やさまざまな作り手をキャンピングカーでめぐる活動は続けていました。

「僕らは田舎を訪ねて農家さんはもちろん、それぞれの故郷で飲食店やゲストハウスを営む人にも本当によくしてもらいました。彼らは一度東京に出たあと大好きな故郷に戻って、その町のためになることをやっている人が多い。そんな姿がうらやましいと思っていました」

田舎を訪れてもうひとつまぶしく思えたのは、コミュニケーションが不可欠な暮らしでした。人口の少ない地域では助け合わなければ暮らしが成り立ちません。一方2人の地元、青葉区は緑豊かな場所ですが大都市に近いベットタウン。誰とも会話をしなくても生活することができる場所です。そのギャップを前に、鈴木さんたちは店という場が提供できるコミュニケーションについて考えていきました。

「例えば青葉台には、僕がこよなく愛していた食堂が何軒ありました。味がうまいとかまずいとかじゃない、安心できる存在だったんです。子どもの頃は親父と一緒に行った銭湯や屋台で、見知らぬ大人からいろいろ話しかけられたり、時には怒られたりもしました。今はなかなか見られない、そういう場所や景色が素敵だと思うんです」

今、Micotoya Houseとして店を構える場所は、藤が丘駅からも青葉台駅からも徒歩で10分ほど。鈴木さんと山代さんが生まれたのと同じ1979年にできたレンガ作りの建物は、青葉区内での配達途中に見つけたといいます。元は工務店だった建物のアプローチには、大家さんが趣味で植えた植物がうっそうと枝を伸ばしていて、その様子もミコト屋らしいと気に入りました。

店を出てすぐのところにあるパッキングスペースに新聞紙あり。お買い物の際はエコバッグをお忘れなく

「Micotoya Houseは、いろいろ面倒くさいかもしれません。人通りのない場所だし、周りは登って下っての坂道。野菜は必要量を自分で測って重さをメモしてもらって、梱包も自分でしてもらいます。もしかしたら手に土が付くかもしれない。それでもわざわざ来てくれる人だから、僕も入れて11人のスタッフは、お客さんに積極的に話しかけています」

Micotoya HouseではKIKI natural Ice creamとして、売れ残りや規格に合わない野菜のほか、例えばワイン用ぶどうの搾りかすなどを使ったアイスクリームを作って販売し始めました。このアイスクリームがおいしいと評判なのです。

アイスクリームは常時10種類。春菊やごぼうなど、他では食べられない野菜を使ったアイスも

オリジナルのイベントも積極的に行っていて、2021年2月のオープン以来、近所の人を中心にたくさんの人が訪れます。実店舗を持ったことでこれまで旅やオンライン、宅配では伝わりきらなかったミコト屋の野菜や食べ物への考え、コミュニケーションも表現できるようになったと鈴木さんは感じているようです。

 

いつか巣立つ子どもたちが帰ってきたくなる青葉区に

さらに3児の父である鈴木さんは、子どもたちにこの街を好きでいてほしい、もしどこかに出てもまた帰ってくる場所として戻れる地域であってほしいと考えています。

わきあいあいとした雰囲気にお客さんとの会話も弾む

「ときどき中学生や小学生も来てくれます。そういう子たちに、自分が子どもの頃にお店でいろんな大人にされたように、八百屋のオヤジの特権として話しかけちゃう。辛いことを抱えていても、アイスを食べると少し元気になるでしょう? だから、例えば失恋話をしてくれたら、失恋割引きとか、そんなサービスができないかなと思っています」と鈴木さん。

「Micotoya Houseは、農家を始め、全国の仲間と地域の人やお客さんとを対等につなぐハブのような場所にしていきたいと思っています。青葉区内には、他にもおもしろいお店や取り組みをやっているプレーヤーがたくさんいます。緑豊かな寺家町や保木もいい場所だし、自転車で乗り継げば丸一日楽しんでもらえるんじゃないかなと思います。少しずつ一緒に育っていけるといいですね」

コロナ禍でイベントが少なくなっている状況ではあるものの、今後は青葉区や緑区を含めたイベントへも参加し、並行して地元青葉区のいいところを別の地域の人たちに広められるような活動もしていきたいという鈴木さんは話します。

そして「SPRASも紹介したい場所のひとつ」と語ってくれた鈴木さん。SPRASも鈴木さんとともに、この地域を盛り上げていきたいですね。