ローカルインタビュー

「地域のあちこちで新しいつながりを生み出したい」

『スパイスアップ編集部』 柏木 由美子さん

「フリーペーパー『スパイスアップ』は、次の号を最後にして、情報紙屋さんから包装紙屋さんになるんです」

柏木由美子さんは真剣な表情で語りはじめました。

スパイスアップ編集部は、2015年から6年にわたって、地域活動の情報紙『スパイスアップ』を発行してきました。2015年といえば、すでに多くの人がスマートフォンを持ち、SNSも一般的になっていた頃です。

「紙にこだわったのは、将来、物として残った『スパイスアップ』を子供たちが見て『街にこんなことがあったのか』とか『あのおじさん、こんなだったんだ』とかつながりを感じられるといいなと思ったからです」

ITライターの柏木さんが青葉区に住み始めたのは2008年のこと。夫と2匹の犬と暮らしながら、この先もずっと青葉区で暮らすかもしれないと感じるようになったそう。同時に子供のいない柏木さんが気になったのは、地域とつながりがないまま歳を重ねることでした。

行動を始めた柏木さんは、高齢者向けのデイサービス施設でボランティアをするなど地域に関わるように。地域活動の中で、のちにスパイスアップ編集部のコアメンバーになるグラフィックデザイナーの佐藤慎治さんと出会ったことが転機になりました。

「情報はあふれているのに、すぐそばでやっている地域のお祭りを知らないとか、身近なことが見えていないことに気づきました。ライターの私にできることは書くことだし、狭い地域に特化した情報を発信したらおもしろいんじゃないか、自分たちが歳をとったときに、街を知っていれば楽しいのではないかと二人で考えました」

そして始まったのがフリーペーパー『スパイスアップ』。6年に渡る活動では、地域の商店はもちろん、ボランティアで手伝ってくれる人など、多くの人とつながりました。

現在は青葉区を中心に都筑区、緑区にまつわる情報を掲載し、発行部数は4,000部、青葉区のお店や施設を中心に180カ所で配布しています。活動もフリーペーパー発行にとどまらず、他の団体とコラボイベントを開催したり、他の団体をサポートしたり、プロボノ集団として活動を広げてきました。プロボノとは、職業で培った専門的なスキルや知識を無償や低報酬で社会のために役立てることです。

 

次のステップは誰でもちょっと駄弁りにいける開かれた移動販売型超ローカルメディア『萬駄屋(よろずだや)』

そんな実績あるフリーペーパーが次号を最後に形を変えてしまうのは、他にも情報発信する人が増えてきたという環境の変化が背景にあるといいます

「『スパイスアップ』で必ず掲載していた福祉系の話題も他の地域メディアが取り上げてくれるようになりました。コロナも含め環境が変わった中で、もう一度自分たちの立ち位置を考えたんです」

そして、柏木さんたちが次に行おうとしているのが移動販売です。

「今秋から『萬駄屋(よろずだや)』という名前で移動販売をやることにしました。トライアルの移動販売をすすき野団地の集会所で行ったばかりです」

「萬駄屋」は6年間で築いてきたつながりから仕入れた商品を携えて、駅から遠い地域を訪れて、販売をするというもの。その商品を『スパイスアップ』の包装紙で包みます。包装紙になる「スパイスアップ」は、内容も刷新する予定です。

「今までフリーペーパーをお店に配布した後は、どんな人が読んでくれているのか、読んでどんな感想があるかも直接わからなかった。それに読む以外の使い道がないのも、もったいないなと感じていました。それで包装紙にすることになりました」

「萬駄屋」に「駄」の文字を入れたのは、つまらないことでもちょっと話しにきませんか?と呼びかける意味を込めています。

青葉区は山坂が多く、年を取ると買い物も一苦労です。だったら「萬駄屋」が移動販売にいけば、お年寄りが地域の商品や情報にふれたり、人と話をしたりする機会が増えるかもしれない。そんな希望を感じて、地域ケアプラザや郵便局の人たちも応援してくれています。

 

「人や活動をぐるぐるつなぎたい」

どうして、そんなにも多くの活動をしているのでしょうか?

「私はとにかく人や活動をぐるぐるつなぎたいんです。例えば「かわもりあおば」という自然散策の団体も運営していますが、身近な自然は実は必ず手入れをして守っている人がいます。散策する本当の目的は、その人たちに会って話を聞くこと、思いを知ることなんですよね」

さまざまな人と活動の関わりを生み出そうとする柏木さん。実は、今、萬駄屋の次に構想していることがあります。その名も「黙々筋肉」!

「街には筋肉自慢がたくさんいるんですよ。例えば、たまプラーザには全日本プロレスの道場があります。ジムのインストラクターやボディビルダー、体育会系の学生も青葉区は多い。彼らと一緒に体操をして、みんなで健活できるような催しを定期的にやりたいんです」

つまり、ラジオ体操のような感覚で、筋肉をキーワードに新しいコミュニティをつくることを考えているのです。

「単なる健康体操よりも、立場や世代を超えて関心をもってもらえると思うんです。閉塞感を打ち破ることもできそうでしょう?」

黙々筋肉の副産物として期待しているのは、30代から50代の男性が地域に顔を出すようになることです。

「男性たちからは、地域に行きつけのお店が欲しいという声をよく聞きますよね。でも自分から情報収集などはしていないようです。黙々筋肉がその入口になれたらSPRASでも開催できるといいかもしれませんね」

黙々筋肉のようなイベントも、独自に編集した情報を印刷した包装紙を使う移動販売も、他に例がない独自の方法で、”おもしろい”を実現していこうとするスパイスアップ編集部。

「数百人が集まる打ち上げ花火のようなイベントをやっても、主催者は満足できるかもしれないけど、来てくれた人の心に残ったかどうかはわからない。それよりも小さいイベントをあちこちで続けて、目の前にいる10人に向き合う方が街のチカラになると思っています。

楽しいことしかやらないと言い切って、さまざまな試みを続けるスパイスアップ編集部の第2章は、青葉台にもちょっとした変化をもたらしてくれるかもしれません。